nicesliceのブログ

子供を見るか、子供の視線のその先を見るか

乳腺炎と母親の就業

今朝のNHKのニュースで、0歳児を持つ母親の就業数が増加していること、それに伴い、乳腺炎や搾乳のしにくさなどの問題を抱える母親が出ていること、快適な搾乳室を備えた企業の取り組みなどが紹介されていた。
以前から、この話、この流れは度々報道されているように思う。
企業の担当者が、「母親がハッピーでないと良い仕事は出来ませんから、搾乳室の設置は大切なことです」などと言うのである(録画していなかった為、正確に同じ言葉ではない)。
いやまったくその通り。
素晴らしい取り組みである。

しかし、心のどこかで「なんだかなぁ」と思う自分がいる。
授乳をやめたり、制限したりすることで乳腺炎になるのだとしたら、まだその親子は長時間離れないほうが良いのではないだろうか。
母親は本当にハッピーか?
そして子供はハッピーか?
私は母乳絶対主義者ではないし、三歳児神話の信者でもない(二歳児神話というものがあるとしたら、その信者にはなるかも知れない)。
でも、まだ母乳を与えたい母親と、母乳を飲みたい赤ちゃんが長時間引き離されることを考える度に、繁殖を早める為に引き離されるトラの母子のニュース(授乳を早期に止めることで排卵の再開を早める為)や、ペットショップで離乳前の子猫を母親と引き離すことへの規制のニュースなどを思い出し、彼らと我々、動物として一体何が違うのか、という思いに駆られる。
搾乳と直母が母子にとってだいぶ違う、という事も、経験している。

 

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0歳児を長時間預けて働く母親の事情や考えは様々であろう。
保育園不足で0歳4月に入園させるしかないという事情、長期間休職することで復職が困難になる可能性、企業側の事情、孤立した育児による外部との繋がりの途絶、などだ。
私は、そういう選択をする母親を批判しない。
そういう選択をせざるを得ない背景がもどかしい。
育児という生涯で一時の素晴らしい時期を、自由の制限されたひたすら鬱屈した時期として過ごさなくてはならないとしたら何かがおかしいし、凄まじく大変な乳幼児の育児の時期が明けた途端、キャリアも職歴もパアになってしまうのだとしたら何かがおかしいし、保育園に預けて長時間離れるか、24時間つきっきりで密室で育児するかの極端な二択となってしまうのだとしたら何かがおかしいし、0歳4月という行政の定めた期日をなるべく1歳に近づける為に、頼むから4月何日以降に出てきておくれとお腹に語りかけなければならないのだとしたら何かがおかしいと思う。

母親自身ではない、何かが。

昔が良かったと言うつもりはない。
ムラや親戚など、共同体全体で子育てを行うのは確かに色々な問題への解決策となろうが、それらは特に女性の忍耐や、理不尽なルールの上に成り立っていた部分も多いと思う。
人口の9割が職住近接の農業に従事しているという時代でもない。
昔が子育てに良い環境だったというわけでもない。
乳母制度というのはまさしく繁殖を早めるための習慣であるし、近世のフランスでは、社会的階層の高い女性が社交という職業(社交は娯楽などではなく、職業的責任のもとで果たされるべきタスクであった)に早期に復帰するため、より階層の低い女性を乳母として雇い、その乳母は更に自分より階層の低い女性を乳母として雇い……と、階層間で子供を、いや、母親を次々にスライドさせる連鎖が起こっていた。
乳母にも自分の赤ちゃんがいるのである。
当たり前だ。
赤ちゃんがいなくては母乳は出ない。
そうして連鎖のいっとう最後である、最底辺の階層の乳母の子供はどうなるか?
家畜の乳などを飲ませて貰えればまだ良い方、穀物粉を薄めたものなどを飲まされていたのだそうである。
生存率が高いわけがない。
(この辺りのくだりの具体的な数値や資料などのソースは失ってしまった。申し訳ない。)

全てを解決する銀の弾丸は、未だ人類は見つけられていないし、きっと存在しないのであろう。
会社に搾乳室を作ることもすればよいし、乳児を連れて出社するという選択肢もあって良いし(大人皆が追い詰められているが故に子供に不寛容なこの国では出社の段階で無理だと思うが)、在宅ワークという選択肢もあって良いし(保育園とセットで利用しないと仕事など出来ないが)、新卒採用主義も改められると良いし(終身雇用は諦めなくてはならないのかも知れないが)、できることはなんでもすべきなのだろう。

が、どんな場合であれ、動物として、乳児に直接母乳を与える権利くらいは保証されてもいいんじゃないかな、猫ですら保証されているのにな、と思う次第である。

 

 

「便利な」保育園が奪う本当はもっと大切なもの

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