nicesliceのブログ

子供を見るか、子供の視線のその先を見るか

「それはお母さんが悪いわよ」VS「絶対大丈夫、お母さんのせいじゃない」

昔、0歳の娘を抱えて何件かの小児科を回っていたことがあった。
産院で受けた1ヶ月検診でいきなり体重の増えの悪さを指摘され、小児科で調べてもらうように言われたからである。
ある医師は発達に問題が無いので大丈夫ですと言い、ある医師はアイスクリームを毎日食べさせれば太りますと言った。
左右のおっぱいで何分ずつ授乳せよ、と言われ、より正確を期すため砂時計(タイマーは音が出る為NG)も購入した。
グラム単位で測れる体重計を購入し、授乳前後で測定した。
訪問してきた保健師は『いかにして人口ミルクを飲ませるか』のテクニックを色々とアドバイスしていった。
どの医師も保健師も、ミルクを足して飲ませるべきという意見は一致していた。
のちに娘は語る。
自分はおっぱい派なのにミルクを飲まされそうになるのが超絶嫌であったと。
そして弟のミルクを味見しては嘔吐するというのを2回ほど試行していた。

私は当時、娘の体重が成長曲線のパーセンタイル帯の下をいくことを、誰かに許して欲しかった。
それは娘さんの体質なので仕方ないです、お母さんのせいじゃありませんよ、と言って欲しかった。
そうでないなら、どこか大きな病院を紹介してもらい精密な検査をして、原因を明らかにし、治療が必要なのか、治療が可能なのか、教えて欲しかった。
何なら、似たような体型および体質であった私と母と姉もまとめて診察し、一体何が原因なのか教えてくれよと思った。
嫌がる娘にミルクを強いるのが苦しかった。
「なんで飲まないの!?」と娘を責めたこともあったかも知れない。
娘の体重の増えが悪いことばかりを気にして、それがいつも心に引っかかり、夜中に涙が止まらなくなることもあった。

ある時、医師に授乳量を問われ、答える流れの中で、吐き戻しのある事を伝えた。
その後、「授乳後にゲップをさせたのか」と問われたが、娘はゲップをなかなかしない子で、もしくは私がゲップのさせ方が下手なのか、延々トントンしてもゲップが出ず、諦めて下ろすと吐き戻すというのがしょっちゅうであった為、正直にそう答えたところ、医師は言った。

「それはお母さんが悪いわよ」

この言葉は私を完全に打ちのめした。

娘の体重が増えないのは、私のせいなのだ!

私はこの言葉で、医師と保健師に対してまとめて恐怖心をもってしまった。
定期検診が恐ろしすぎるイベントになり、行くのをやめたくなった。

行けばまた「体重の増えが悪い」と言われる。
また「ミルクを足せ」と言われる。
また「お母さんが悪い」と言われる……。

それでもなんとか行くのだが、問診が近づくにつれて怖くて仕方なくなり、娘を抱いてトイレに閉じこもり、動悸と涙が落ち着くのを何十分も待たなくてはならない始末であった。

やがて定期検診もなくなり、食の細い痩せた娘を私は受け入れ、諦めた。
子供の頃、娘よりもなお小食で痩せていた私が、娘に一体何を強いることが出来ると言うのだ。
『母親が世の中に責められるから、食べろ太れと子供を責める』という構図は最悪である。
私に出来ることは、かつて同じ立場だった経験を生かし、人並みに食べろ太れと強いる声から娘を守ることだけである。
娘はその後、何の問題もなく成長し、元気に成長曲線のパーセンタイル帯の下をひた走っている。

先日、息子を連れて、くだんの医師のところに行った。
軽い風邪の症状が続いていたのと、遊びの中で強く鼻をぶつけ、折れていないか気になった為だ。
医師は、家族の既往歴を聞いたあと、軽い喘息かもしれないと言った。
実は最近私は喘息を発症し、治療を始めたばかりであった。
そこで、

「部屋の掃除が足りないのでしょうか?
 もっと掃除をした方が?」

と聞くと、

「大丈夫、そんなことない。
 いくら掃除しても完全にきれいになることなんてないんだから、普通でいいの。
 鼻も、腫れてなくて鼻血も無いから絶対折れてないわよ」

と仰った。

「絶対大丈夫」
「お母さんのせいじゃない」

これらの言葉は私を完全に救った。

かつて「お母さんが悪い」と言われた先入観から、私はこの医師が苦手であった。
できれば他の医師に当たってくれ、といつも祈っていた。
彼女からこんな言葉を掛けられるとは思っていなかった。

産後であったとはいえ、私は世の中からの言葉に、いや、母である私に対する評価というものに、気を取られすぎていたのかも知れない。
同時に、たった一言で人を頑なにもオープンにもしてしまう言葉というものの力を思い知った気持ちである。

 

 

niceslice.hatenablog.com

 

 

niceslice.hatenablog.com

 

 

niceslice.hatenablog.com

 

 

niceslice.hatenablog.com