nicesliceのブログ

子供を見るか、子供の視線のその先を見るか

ケアワークのあり方、社会的尊敬、老後2000万円問題とか

ここらへんの記事の続き。

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私は、近代後期から現代前期に掛けての性的分業システム、いわゆるモーレツサラリーマンと専業主婦という家族構成を否定しない。
元来ケアワークも家事も、人が生きていくためには欠くべからざる、尊敬に値する仕事であるはずだからだ。
しかし少なくとも我々は、それらの労力を社会的尊敬と蓄財に変換する仕組みの発明には至っていない。
中世から近代に掛けては、社会的尊敬の獲得や蓄財には至らぬまでも、「子供を産み育てない女は死後の世界に渡れない」だとか、「結婚しないと生きていけない」だとか、「子供がいないと労働力に事欠く」といった、宗教や共同体のコモンセンスに裏打ちされた『罰回避の為のインセンティブ』が存在したが、幸い(?)今は無くなった。
寧ろ、無償のケアワークへの従事は、社会的尊敬と蓄財を得られる『かつて男だけのものだった仕事』の遂行を妨げるリスクとなったのだ。
別に社会に尊敬なんかされなくても良いよ、という人も多いかとは思うが、『収入のない人』に対して世間がどういう扱いをしているかを考えれば、せめて尊敬はされなくとも一人前の大人として認められたいという願いはあって然るべきだろう。
そして、無償でケアワークに従事しても自分の手元には金銭的価値のあるものは何も残らず、蓄財は出来ない。
配偶者の稼ぎに依存して何十年も生きるのは、余りにもリスキーである。
私もかつては『子供の笑顔だけ残ればあとは何も要らない』などと思っていたのであるが、実際問題、老後に貧困の中で苦しむかもしれないのは嫌である。
自分の裁量で、自分の決定で、旅行にも行きたいし仕事も住むところも決めたい。
子供の進路に関わるお金を、誰にもお伺いを立てることなく出してあげたい。
親であれば誰でも、もし仮に配偶者が酒乱、DVD、食い尽くし系などの『ヤバい存在』に変貌したら、子供を連れて即日逃げられるくらいの稼ぎ力は持っていたほうが良い。
仮にヤバい存在に変貌しなくとも、失職や離婚等のリスクは誰にでもあるのだ。

老後2000万円問題というものがある。
今の若者は、結婚や出産をリスクと捉え否定的だというが、今の若者はまさに、『子供が老親を養うもの』という価値観が崩壊するさまと、その結果としての『なんとしても自分で老後資金を蓄えておかなくてはならない』という価値観の定着を目の当たりにしてきた世代である。
『老後には2000万円の蓄財が必要である』という言葉は、元々は、人口ボーナスの恩恵を受けられた富裕な世代の人々に投資を促す為のただのキャッチコピーであったはずなのに、我々氷河期世代を筆頭とした人口オーナス世代の人々をおおいに恐れさせた。
東南アジアで詐欺や強盗の掛け子をして捕まった若者が
「老後に2000万円が必要と聞き不安になり犯行に及んだ」
と動機を語ったり、マンション投資詐欺に引っかかった若者が
「老後に2000万円が必要と聞き不安になり引っかかった」
と心境を語ったりする。
現代においては、平均的な収入では、老後に2000万円を貯めることがイメージし難いのかも知れない。
そんな状況では、結婚して子供を産み育てているヒマはない。
子供を産み育てるのに掛かるお金が2000万〜4000万。
子供を産まなければ、その分でなんとか貯められるのではないか、と、そのような考えが広まっているのかも知れない。
別に昔も今より皆が豊かなワケではなかった。
寧ろ貧乏であった。
むしろ、今が豊かであるから、いつか来るかも知れない未来の貧乏が怖くて産めないのではないか。
自分に人権があると気づいてしまったから、動物としての繁殖に伴う数多くの理不尽に耐え難くなったのではないか。

生きる為には好きでもない男の子供を妊娠出産しなくてはならない時代があったという。
かつて、多くの人にとって結婚と恋愛は相互に関係のない事柄だったのだ。
妊娠出産の過程で行われる事や、起こる事を考えると、これはハチャメチャな人権蹂躙だと思う。
男だって、好きでもない女を養うのは嫌だったことだろう。
そういう意味では、近世に於ける『人権の発明』および、現代に於ける『人権の普及』に伴う皆結婚時代の終焉と、それに伴う少子社会の出現は当然の結果である。

しかし厳密には、結婚と出産もまた、別の事象であるはずだ。
結婚は、繁殖を安全に行うためには優れたシステムではあったけれども、人権の発明および普及から時を経た現代においては、何かもっと別のシステムによって出産育児をバックアップする方策があっても良いのではないか。
結婚によらない繁殖の保護システムが、求められているのではないか。
すると結局、『結婚システムに於いて男が担っていた、出産育児期の母子保護の役割は国が担うから、皆、結婚してなくてもバンバン子供産んでね、あと、育児終わった後でも就職出来るよ』とするしかないのではないかなぁ。
限りなく一夫多妻に近い形になるとは思うけれども。

 

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