nicesliceのブログ

子供を見るか、子供の視線のその先を見るか

仕事で英語使う大人だけど子供向けのプリント大量メソッド塾で英語の勉強にチャレンジしてみた

私は、社会人になってから、さまざまな方法で英会話の勉強を試みてきた。

・Podcasts
・イギリスで移民向けに提供されていることが売りのPCソフト、ナントカストーン
スマホでとにかく単語を覚え続けるアプリ
・携帯ゲーム機向け英語勉強ソフト(何本も!)
・書籍
・CD

などなどだ。
上記には対人スクールが見当たらないが、これはかつて、終電や泊まりや休日出勤が当たり前で、常識的な時間に社外の人と対面することが不可能な就業形態に身を置いていた為だ。
そして当時は、オンライン英会話というものはメジャーではなかった。

なぜ英語の勉強を試みていたかというと、ひとえに収入アップのためである。
同じIT技術者でも、英語を使えるという条件を付与するだけで、大幅な待遇向上が見込める。
レイオフの恐怖が常につきまとうとしてもだ。
しかし生来の飽きっぽさと集中力の無さから、勉強開始→ハマる→飽きる→やめるを繰り返していた。
これは現在に至るまで変わらない。

私は今、念願叶ってそのような職場に転職したが、英語力はウ◯コである。
英語以外の専門性があるから辛うじて生き延びているに過ぎない。
英語には日々、苦労している。

こいつはどげんかせんといかんと思い立ち、オンライン英会話をはじめた。
英語圏に住む講師と、一日に30分ほど会話するのである。
生徒向けサイトから教材をDLし、それをベースに会話をするのだ。
ちなみに講師は英語しか話せず、英語だけでレッスンは進む。

そして開始したのであるが、やはり1ヶ月程度でやめてしまった。
割と、精神をゴリゴリと削られるのだ。
ビジネス英会話に特化したサービスであるので、『あなたの会社はどんな会社?』『会社の規模は?』『顧客は?』『どういうサービスを提供しているの?』『上司や同僚は何て名前のどんな人?』『仕事の内容は?』という会話内容がほとんどなのであるが、守秘義務に必要以上に気を使ってしまい、微妙に嘘をついたりぼかしたりする話し方をせざるを得ない。
顧客やサービスに関することなんて第三者に話せるわけがない。
すると、頭の中の答えをストレートにoutputすることができず、フラストレーションが溜まるのだ。

そしてやはり、ヒアリングに難のある自分には、英語だけで進めるレッスンはレベルが高かったのだ。

決定的だったことがある。
講師が自分に質問しろという課題があった。
教材に則って、私が講師の仕事環境について質問をするのだ。

正直に言おう。
私は、いつもは質問される側だったのが逆転したことで、
「質問するだけなら簡単ジャーン」
と、めちゃくちゃ気を抜いていたのだ。
質問と回答が終わり、講師が言う。
「じゃあ、今の私の回答内容をまとめて言ってみて」

え!
そういう後出しがあるなら先に言ってよ!
知ってたらもっと集中して聞いてたわ!

正直に言おう。
私は、ほとんど何も聞き取れなかったのだ。
もしかしたら後出しではなく先にルールを言われていたのかもしれない。
それすら聞き取れなかったのだろう。

私に聞き取れたのは、
「私の上司のサントス(仮名)は〇〇(特定の性的嗜好の人を表す言葉)です」
だけであった。
突然あった事もない人の性的嗜好を勝手にカムアウトされ、私は完全に戸惑っていた。
それ、言っても大丈夫なやつなの!?

講師が畳み掛ける。
「聞き取れた部分だけでいいから、言ってみて」
言えない……。
唯一聞き取れたのが、
「上司が〇〇(特定の性的嗜好の人を表す言葉)」
という一文だけだったなんて……。

そして私はオンライン英会話を休会した。
籍は残してあるので、いつかは戻るかもしれないが。

次にトライしたのは、とにかく大量のプリントを解かせるメソッドで有名な、子供向けの塾である。
上の子がそこで国数英を受講しており、この度、下の子も始めたいと言いだしたので、ついでに私も始めてみたのだ。
子供向けであるが、一応、大人レベルのプリントも存在しているということである。

プリントをひたすら大量に解くのはさぞ苦痛だろうと思う。
知的な刺激が乏しそうだからだ。
そんなことをする暇があったら、空想したりパソコンでゲームを作ったり本を読んだりしていた方が良いと思う。
夫の意向で通わせているが、私は、自分なら絶対嫌だと思っていた。

それでも子供に何かを強いるなら、自分もそれをやらなくてはならない。
良い機会であるので、私もそこの教室で英語を受講し始めたのだ。

しかし……。
これは、なんと言うか、『日々の業務で役立つ英語を身につけたい』という自分のニーズに合っているのか全くわからない。

受験には、向いているのであろう。
文章を読み内容に関する設問に答えること。
英語を日本語に訳すこと。
その逆。
どれも見慣れた、日本の教育現場のメソッドである。
問題を解く間、私は静かな教室でずっと黙りこくっている。
プリントには一応、音読の欄もあるので、聴き役の講師の前に出来た子供たちの列に加わるが、
「あなたはもう一定のレベルに到達しているので音読はしなくても良いです」
などと言われ、とぼとぼと席に戻りプリントとの孤独な向かい合いを再開する。
う〜ん、これは、英『会話』なのか……?

その挙げ句、
「字が汚いのでバツです」
と、そんな理由でプリントにバツを貰ってしまった。
ショック……

ワタシ シッテル
ITギジュツシャ ナゼカ ミナ ジ キタナイ
デモ フダン テデ モジカクコト ホボ ナイ
ダカラ ダレモ コマラナイ
ホワイトボード トキドキ ヨメナイ ダケ

ちくしょー!
絶対本国の人間の方が英語の文字汚いからな!(偏見)

ひたすら続く孤独な翻訳作業。
しかし文章の翻訳だけであれば、今、翻訳するための手段が山ほどあるので、別に困っていないのだ。
私が日々の仕事で困っていることは、相手の発音が聞き取れないことである。
日々の仕事でもっと身につけたいことは、自分の意見を相手に伝えることである。
日々の仕事で重視されることは、相手の話を聞きわからない点を質問することである。

自分の意見を言わないヤツや、質問しないヤツ、黙りこくっているヤツは、何もわかっていないアホと見做されるであろう。
自明な質問や的外れな質問であっても、質問しないよりはマシである。
これは別に仕事においてだけではない。
旅行先でも同じである。

それらのスキルは、この教室のプリントメソッドで身に付くのだろうか。
このプリントの山の先に、『英語を使って顧客や同僚とコミュニケーションを取りながら何か自分の専門分野の仕事をする』という未来は、果たしてあるのだろうか。

これは恐ろしい疑問である。
問題は、この教室の中だけにとどまらないからだ。
この教室のメソッドは日本の教育現場における英語教育におおむね準拠している。
その先には、受験がある。

かつて私は、このような受験メソッドに則った勉強を、6年以上も続けてきたのではなかったか。
特に落ちこぼれることなく、それらを修めた。
しかし今、実業務における私の英語力はまったくもってウ◯コである。
もう一度同じメソッドをなぞって、同じ事をやって、違う未来は現れるのか。

日本における英語教育および受験が、日本人が世界で、多様な人材とともに働くために、ほとんど効果を持たないのだとしたら。。。
いや、わかっていたのだ。
わかっていたのだが、改めてこう目の前に突きつけられるとダメージと不安が大きい。

これは教室と私の問題ではなく、日本の教育現場における英語教育と子供たちの問題である。

文章の相互翻訳ではなく、穴埋め問題でもなく。
子供に必要なのは、自分が何を好きか、毎日何に興味を持って過ごしているかを、拙くても良いから英語でとりあえず話してみることなのではないか。
あるいは、日記やちょっとしたストーリーを英語で出力することなのではないか。
自分の頭の中を、考えを、間違っても良いから英語でoutputしてみること。
これは、このプリントの山にいつか出現するのだろうか。

昔、

「俺はまだ英語がちゃんと話せないから、海外には行かない」
という友人がいた。
彼に贈った言葉がある。
「君は部屋の中で完全に滑れるようになるまで本でスケートを学習してからスケートリンクへ行くといいよ」

谷崎潤一郎の、痴人の愛という小説がある。
無学な女給、ナオミを拾った主人公が、妻にするために彼女を育成する、プリンセスメーカーみたいな話である。
男の願望って100年前も変わらないのな(これもまた偏見)。
主人公から英語を授けられたナオミは、駐留米軍なんかとも華やかに交流するのであるが、それを見た主人公は、やれ過去分詞形の使い方がおかしいだとか、現在完了形がまちがっているだとかウゼーことを散々言うのである。
しかし肝心の男は、文法ばかりに詳しくて、英語話者と話す度胸や社会性は無く、会話はサッパリなのだ。

その後、私はプリントメソッドの塾に早々に見切りをつけやめてしまった。
全く引き留められなかった。
塾側としても、
「なんでウチで英『会話』を学ぼうとしとんねん」
と思っていたのかもしれない(受講目的は話してあったので)。

そして私は今、オンライン英会話に戻り、講師が上司の性的嗜好について語るのを聞くようなエキサイティングな日々に戻るか否か、考えあぐねているのだ。