この二つのニュースを見ていただきたい。
一つ目。
外出自粛の中 野菜育てる家庭菜園 子育て世代に人気 | NHKニュース
抜粋『
3日も開店と同時に子ども連れの家族が次々と訪れ、店のスタッフに育てやすい品種や栽培方法などについて質問しながらナスやキュウリ、トマトなどの夏野菜の苗を買い求めていました。(中略)
野村植産の野村辰也代表取締役は「今の時期、夏野菜を育て始めるのに最適な季節です。外出を控える今、親子で野菜を育てて、新鮮な味を楽しんでもらいたいです」と話していました。
』
二つ目。
「まるでテーマパーク」「毎日3密」gwに休業相次ぐホームセンターで、今起きていること
抜粋『
Twitterには「#ホームセンター従業員の叫び」というハッシュタグもできており、「テーマパーク化してます」「従業員は無責任な客のせいでリスクに晒されてるの。今ガーデニングやDIYやらないと死んじゃうの?」など、混雑具合や忙しさ、感染に怯える様子が多数投稿されている。
』
同じ事象であってもニュースの発信者により見方が正反対になることがある。
前者のニュースでは、この状況下での家庭菜園の開始を(関連する買い物を含め)肯定的に、後者では否定的に報道している。
私が気になっているのは、後者のニュースにて紹介されている「従業員は無責任な客のせいでリスクに晒されてるの。今ガーデニングやDIYやらないと死んじゃうの?」というつぶやきである。
私はこのつぶやきの原典を見ていないし、ニュースとは前後の流れをぶったぎって印象操作をするものであるからそれを加味して捉えなければいけないとは思うが、もしもこのつぶやきがこの通りのものだとしたら、この従業員が本来怒りをぶつけるべきは、まずは店及び経営者である。
「今ガーデニングやDIYやらないと死んじゃう」わけでは勿論なく、且つ、ガーデニングやDIYコーナーに客が殺到して従業員がリスクに晒されているのであれば、やらなくても誰も死なないガーデニングやDYIコーナーは閉めるべきだ。
就業中の従業員のリスクを管理するべきなのは、消費者ではなく店及び経営者であるからだ。
この従業員が呪うべきは、「やらなくても誰も死なないガーデニングやDYIコーナーは閉めるべきです」と上司に進言出来ない自分であるか、若しくは「進言してもどうせ聞き入れられない」と絶望するしかない、ボトムアップの仕組みの無い会社であるか、進言される前に従業員を守る決断をしない店及び経営者であるか、『自粛』という言葉で責任を現場へ帰する行政である。
消費者は知識も考えも様々である。
家庭菜園に対するニュースであっても、前述のように正反対のことを言っているのであるから、どちらが正しいのかなど、人によって判断が様々なのは当然である。
このように、『自粛しろ』と下々の者が互いに監視し合い相争う構図があちらこちらで起きているように思う。
テレビのニュースで、サーフィンに来た客にテレビクルーが『その外出は不要不急なのではないですか?』とインタビューしている映像を見たが、その取材こそ、その報道こそ、不要不急ではないのか?
ワイドショーで一日中同じような放送をする為に、一体何十人、何百人の関連するスタッフが、電車に乗って通勤しているのかな、と想像する。
強い規制や禁止をせずに、『自粛』や『マナー』の名のもとに、下々の者同士で監視しあわせることで、責任や管理コストを最小限に抑えるというやり方は日本のお家芸である。
上からの強い禁止をすれば下々の者の不満は上に向かい、『上 vs 下』の構図が生まれるが、強い禁止をせずに下々の者同士で監視をさせ合えば、『下 vs 下』の構図を作ることができる(意図的でないとしても)。
私は今の状況から、五人組、隣組といった、過去の相互監視システムを連想する。
これらは正に、個人主義ではなく、ムラ社会で『恥』を重んじ、集団の『和』を大切にすると言われる日本人と実に親和性が高いシステムであろう。
いや、私とて、では一体どのようなやり方が正しいのかなど分からないし、分からないままこうして文句を言っている愚かな下々の者の一人でしかないのだ。
政治家も、行政も、経営者も、従業員も、消費者も、皆、分からない中、リソースの限られた中で、精一杯の判断をして、今考えられうるベストの行動をしているのだと思う。
例えば、ホームセンターの経営者とて、従業員の生活を守る為に店を開ける判断をしている、という面もあるだろう。
テレビスタッフとて同じであろう。
ただ一つ言えるのは、下々の者同士で監視し合い、疑い合い、憎しみ合うことは虚しい、という事だけである。