nicesliceのブログ

子供を見るか、子供の視線のその先を見るか

地方から若者が逃げ出した過去の構図が、そのまま、日本から若者が逃げ出す現在の構図と重なって見える件について

先日のクローズアップ現代のテーマは『“安いニッポンから海外出稼ぎへ” ~稼げる国を目指す若者たち~』であった。

自分もちょうどそのことを考えていたところであったので、一つ書いてみよう。

www.nhk.or.jp

www.nhk.or.jp

日本の若者が、先進国に流出しているという。

同じ仕事をしていても、日本の何倍もの賃金を貰えるからだとか、日本では女性は昇進しにくいからだと言う理由らしい。
かくいう私も、外資系企業への再就職という形で、そっと静かに緩やかに流出した一人である。
私の場合は、賃金の高さや柔軟な働き方に惹かれたのはもちろんであるが、育児による何年ものキャリアブランクや、『幼児を抱えた母親』という属性が、日系企業では到底受け入れられないだろうという、『はじかれる側』の事情もあった。
男性であっても我が子の学校からの呼び出し等で仕事を抜けるのは珍しくないことであり、自分で調整して自分で帳尻をつければそれで誰も困らないというのは、『【その時間】に【その場所】に居ること』が何よりも重要視されるコロナ以前の日本企業で育った自分の目から見ると、新しい。
もしかしたら、コロナ後の今は日本企業もそのような感じなのかも知れないけれども。
さて、一方で賃金の高さはしかし、明日解雇されるかも知れない不安定さと表裏一体でもある。
雇用の流動性の高さこそが、賃金を上げるエンジンでもあるからだ。
レイオフの心配なく働ける点は、日本企業の良い点でもある。
それでも自分の周りでも、日系企業で一人前になってから、外資に行く技術者の話を聞く。
そのたび、大学出たての若者を何年も掛けてじっくり育て、やっと使えるようになった頃にあっさり手放す日系企業は太っ腹だなぁといつも思う。
外資系企業は若者にコストを掛けて一人前になるまで育てるということはあまりしないから、日系企業が実質、人材を育ててはタダで輸出するファームのようになってしまっているように見える。

より高い賃金や、柔軟な価値観を求めて海外に出るというこの状況。
これは一過性のブームだろうか。
それともある程度、数十年単位で継続するのだろうか。
私は、つい最近まで前者だと思っていた。
円安と賃金低迷によるものであり、それらが解消されればこのブームは終わるだろう、と。
しかし今は、数十年単位で継続するものかも知れないなぁと思っている。
一つには、若者が流出する理由として、経済要因ではない、「他の先進国の方が、女性が(あるいは、昭和の父親型以外の人材が)働きやすいから」という理由が挙げられていること。
そして、以下の本を読んだことによる。

 

 

この本では、沖縄が何故いつまでも貧困にあるかということがつらつらと書かれているのであるが、フォーカスアウトすると、沖縄の問題は日本の問題であるとも書いてある。
この本を読んだ時は、「ほーん、なるほどね」としか思わなかったが、人材流出の件と照らし合わせて考えると、沖縄と日本が相似の関係にあるのと同じように、沖縄以外の地方もまた、日本と相似の関係にあるとは言えないか。

地方から東京に人材が流出する。
より高度な教育を受けるためであったり、賃金の高さに惹かれてであったり、地元の価値観が息苦しくなってしまったり、そのような理由で流出する。
世界および日本は常に価値観をアップデートしていくが、バックラッシュ(揺り戻し)の声もまた大きい。
平成の時代に、昭和へのバックラッシュが激しい地方から根こそぎ若者(特に若い女性)が逃げ出したのと同じことが、令和の日本に起きているのではないか。
為替相場などの経済的要因は容易く変わり得るが、価値観が古いとかそういった要因は、今後数十年間は変わらないだろうから、現在地方が衰退するのと同じ道を、日本は歩んでしまうのかなぁと思う。
歴史から学ぶことがあるとしたら、日本が学ぶべきは、人材流出の最先端を行く地方の過去からである。

その後、地方ではUターンブーム、Iターンブームなども起こりかけては消えていった。
将来の日本も、今の外国からの観光ブームと同じようなノリで、あるいは地方暮らしに憧れる東京モンのようなノリで、日本に憧れる流出二世も出てくるかも知れない。
以下はそこで予想されるストーリーである。

2053年、日本から若者、特に女性が減りに減り、困った日本は嫁募集ツアー『バックトゥジャパン』を企画。
日本に来て日本男性の嫁になると、リフォーム済みの空き家を貰えるのだ。
日本暮らしに憧れる流出二世を日本に招くが、空港に迎えに来た企画側リーダー層が、全員、ダークスーツを着た中年男性なのをまず不審がられる。
スーツ・オブ・ザ・ラウンドである。

面接により各人の意向を聞かれる。

「私はプロジェクトXみたいな日本の時代劇にとても憧れがあるので、日本の昔のお母さんみたいになりたいです。
 子供に手料理やお菓子を作ったり、毎日一緒に公園に行ったりして、一生のうちの短い育児期間をめいっぱい楽しみたいです」

『そういう理由で一度でも会社を辞めると、二度と元の待遇では戻れません。
 日本の企業に入るチャンスは、多くの場合新卒時に限られています。
 子持ちの女が元の待遇で雇われることはまず無いと思ってください』

「えっ!
 じゃあ、子育てが終わったらどうしたら良いんですか?」

最低賃金でパートタイム労働をするのが一般的です。
 最低賃金は¥1,132 /hです。
 30年前に比べて60円もアップしたんですよ(ニッコリ)。
 あとは、夫が一生養うのも一般的ですが、離婚すると人生が詰みます。
 尚、2053年現在の離婚率は40%です。
 シングルペアレントのうち、養育費を受け取っているのはごくわずかです。
 婚姻期間中、無職やパートタイム労働下で身内に介護問題が発生すると、もちろんあなたがそれを担うことになります。
 パートタイム労働によるケアワークの両立は、日本が世界に誇る素晴らしいシステムです。
 これにより、正規労働者は介護や発熱した子供の世話やPTA活動により仕事を妨げられたりすることなく、仕事に集中出来ます。
 それと、日本人は基本的に子供が嫌いです。
 子連れやベビーカーで公共交通機関に乗るのは迷惑とみなされます。
 子供を連れた母親は、「子供を産んですみません、社会に迷惑を掛けてすみません」と概ね一日中謝り続ける事が求められます。
 公園も、基本的には高齢者や近隣住民の危険や迷惑にならない形で利用して頂きます。
 迷惑な行為とは、友達を大声で呼ぶ、乳児の泣き声、ボールの使用、遊具の使用、鬼ごっこなどです。
 まあ、子供向けの遊具は今は概ね撤去が終わって、高齢者向けの体操器具に置き換え済みなんですけどね。
 子供が嫌いなので、やっとここまで減らしたのです。
 子供は迷惑だしうるさいし教育コストが掛かるので総力を挙げて減らしたのですが、そうしたら何故か市場規模と労働人口も減ってしまって。
 どうしてなんでしょうね』

「そんな……」

 

『次の方どうぞ』

「私は介護の資格を持っているので、結婚してからも、人手不足と言われる日本で、頑張って働きたいと思います」

『介護の求人は最低賃金が多いです』

「え!
 人手不足ではないのですか?」

『日本では、「人手が足りないから待遇をよくして人を集める」という発想はあまりありません。
 ご存知のように、日本の介護職は皆、出稼ぎに出ています。
 日本の質の高い介護サービスは輸出産業となり、日本人の介護をする人は居なくなりました。
 あと、移民を入れると治安が悪化するだとか、移民が生活保護を不正受給するという意見をネット上で山ほど見ると思いますが心を強く持ってがんばってください』

「え!
 人手不足ではないのですか?」

 

『次の方』

「私は、日本で結婚して子供に日本の質の高い教育を受けさせたいです」

『日本で教育を受けた場合、実用レベルの英語はまず身につかないので、将来子供が日本を出るのは非常に困難になります。
 日本では「何学科で何を学んだか」よりも「どの大学に入学できたか」がとても大事です。
 日本で考えられ得る最高のルートは、学童期から塾に通い詰め、世界三十何位かの大学に入って弁護士や官僚や何かになる事ですが、その結果、海外で簡単なバイトをするよりも労働時間は長く賃金は低いです。
 こころざしを高く持ってがんばりましょう。
 あと日本では教師には残業代が付かないのでやりがい搾取の対象となっており、こころざしのある教師を片端から使い潰した結果、2053年の今では免許が無くても誰でもなれる職業になっています』

「えっ!」

 

こうして無事に心折られ追い返された女達は、母親に愚痴ってこう返されるのである。

「だから言ったじゃない。
 日本は観光に行くには最高だけど、働いたり子供を育てたりするにはハードすぎるって。
 なんで私が逃げてきたと思っているのよ」

怒らないで欲しいのであるが、私は、日本のやり方を否定はしていないし、いち地方出身者として地方の重要性は認識しているし、海外は海外で国それぞれのヤバさがあることも知っているし、海外バンザイ!と言っているわけではないのである。
ただ、地方の過去と今の日本があまりに重なり過ぎていて、日本の未来に地方の現在が二重写しに見えて、危機感を持っているだけなのである。