nicesliceのブログ

子供を見るか、子供の視線のその先を見るか

入学準備と筆箱

所用があってスーパーマーケットの文房具コーナーへ一人で行った。
子供向けの沢山の文房具に混ざり、女児向けの筆箱が並べられている。

ああ、筆箱。

どれも可愛い。
年長の娘とここに来て、あれも欲しいこれも可愛いと言い合いたい。

いや、違うな。
筆箱が欲しいのは、私である。
たまたま自分と同性の子が産まれ、幼い頃の私が『内なる女児』として再び目を覚ました。
私の『内なる女児』と娘とを同一視するのは危ない。
それらは別の人間である。
娘の好きな物を買ってやりたい気持ちも勿論あるのだが、何よりこの内なる女児が可愛い筆箱を求めて求めてやまないのである。

ああ、筆箱。

数十年前の話である。
小学校入学を控えた私は、親に、入学準備の一環として筆箱を買ってもらった。
今でも忘れない。
ウサギのイラストの描かれたベビーピンクの筆箱である。
私はこれを持って学校へ通う日を想像し、うふふうふふと眺め暮らした、筈だった。

しかしそうは姉がおろさない。
姉は、妹である私ばかりが新しい筆箱を買って貰ってズルいズルい!と怒りまくった。
怒り、怒り、最終的に母か誰かの仲裁により、入学までの期間(おそらく3ヶ月ほど)、その筆箱を姉に貸し、姉が使うという事になった。

おかしくない?
入学のために揃えられた学用品を徴発する人、そして他者が先に使う事を許す親、いる?
私の年長の娘ですら、何かの理由で彼女の弟だけ新しいものを買って貰ったとして、一瞬それをズルいと言うことがあっても、私がちゃんと理由を説明すれば納得するぞ?
仮に、姉の入学時は可愛くない筆箱を与えられたから、という理由であるならば、別の可愛い筆箱を姉に与えられるべきで、そんな理由で私の筆箱が徴発されるのはおかしい。

いや、今考えてもあまりにもおかしいので、何か私の記憶から抜け落ちている、上記の顛末に至るに足る重大な落ち度、例えば、私が姉の新品の筆箱を壊すとか、があったのだろうかと疑われるほどだ。
全く記憶にないけども。
まあ、姉は私の入学準備の多くのものにズルいズルいと怒りまくっていた人なので、当時の私の権力の無さを考慮すると、そういうことがあってもおかしくなかったのかも知れない。
特に、学習机というアイテムに対する嫉妬が激しかったので、家具という大物をチェンジするよりは、筆箱という最小の物を与える事で姉の私に対するヘイトを反らせたという可能性は十分考えられる。

兎に角そうして、わたしの新品のピンクのうさちゃん筆箱は姉に徴発された。

入学が近づいてきても、なかなか筆箱は返ってこなかった。
私は毎日あのウサギが心配でやきもきしていたが、あの恐ろしい姉に自ら問いただすことは出来なかった。
来る日も来る日も待ち続けて、やっと母に仲介を頼み、返してもらったその筆箱は—————。
とても新品とは言えない使用感を伴っており……、ああ、一匹だったウサギが、両脇に子分を従えたウサギ三兄弟になっていたのであった!
ボールペンで描かれた子分のウサギたちは、ビニール地に青く滲んでいた。

私は泣いた。

そして親はこの件を、私に別の、猫の写真のプリントされた筆箱を買うことで解決とした。

筆箱を見ると、この事件を思い出す。

今、私は大人だ。
この売り場の女児向けの筆箱、ぜーんぶ買ってピラミッドを作りたい。
でも、使い道も無いのに?
置き場所も無いのに?
そんなお金は一円でも多くもっと有用な使い道に回すべきだ。

以前記事に書いたB氏は、40歳を過ぎて親に雛人形を買わせ、溜飲を下げようとした(下がりきらなかった)。
私も姉に筆箱を買わせてピラミッドでも作ってみれば、この妄執を断ち切ることが出来るのであろうか。

そんな事とは関係あるのか無いのか知らないが、私は箱、特に小箱が好きだ。
私としては、箱などというものは大抵の人は好きなものだと思っているのであるが、夫に言わせると特筆すべきレベルで好き、ということになるらしい。
買い物中に私が魅力的な箱にフラフラと引き寄せられると、「お!ほんと箱好きだねぇ」と言われるし、夫が私の好きそうな箱を見つけると「ほら、箱だよ、箱! 箱!」と教えてくれたりもする。

思い返してみれば、私は小中学校にかけて頻繁に箱を作っていた。
紙や、粘土や、布や、木で作っていた。
授業でもプライベートでも箱を作り続け、私の作った超ナイスな箱は、最終的に県の美術展覧会(県展)立体の部で金賞を受賞した。
余談だがこの時、平面の部にも出品していたのだが、そちらは「審査結果は金賞だったものの同一人物に二つ金賞は与えられないという理由で銀賞に格下げとなったけどごめんね」、という通知を美術教師経由で受け取り、そんなん有りかよ、と思ったものだ。
当時、私は箱作りというのは至極一般的な趣味だと思っていたが、もしもこれが姉の筆箱徴発による喪失感を埋めるための行為だったとするのであれば、少しは良い方向に転化だか昇華だか出来たのだとも言えよう。

作りたい 筆箱重ねた ピラミッド

 

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