少し前、園児の息子が熱を出した。
夜、息子を寝かせている部屋から大きな泣き声がしたので赴くと、
「怒った顔がある!
こわい!
ほら、あそこ!」
と、何も無い空中を指差す。
何も無いよとなだめても、
「そこ!
お母さん、ちゃんと見て!
ほら、そこに知らない人の顔がある!
怒った顔がどんどんぶつかってくる!」
と怯えて泣きじゃくる。
これが噂に聞くやつかと合点し、それは熱せん妄といって、熱のせいでそこに存在しないものが見えるのだと息子に説明し、だから私には見えないのだごめんね、となだめた。
しばらくして息子は落ち着いたが、これ、分かっていてもなかなかに怖いものがあるな、と思った。
『怒った顔』というチョイスがなかなかにくい。
一時的に、自分がジャパニーズホラーの主人公になったかのような戦慄を味わえたではないか。
昔の人がこれに遭遇したら、そりゃあ、祈祷師を呼びますわ。
祝詞と経と聖句を唱えながら半狂乱でシャクティパットをしますわ。
思えば、小学生の娘も昔、熱を出して
「そこに魚がいる!
こわいよー!」
と幻を見て泣いたものだ。
子供が熱せん妄で混乱し窓を開けて飛び出すこともあると聞く。
子供が発熱している時は、戸締まりを厳にしたいと気持ちを新たにした。